本記事では、生成AI導入において現場部門と情報システム部門(情シス)が対立しがちなポイントを整理し、スムーズに連携・導入を進めるための実践的なヒントをお届けします。現場の“使いたい”と情シスの“守りたい”を両立するために、具体的な対処法と事例を紹介します。

こんな方におすすめ

  • 社内で生成AIの導入を検討している
  • 現場からの要望と情シスの懸念の間で調整に悩んでいる
  • スモールスタートを円滑に進めたいと考えている

ネクストはこれまで、500社を超えるお客様に対しAI導入や業務改善を支援してきました。その中で多く見られたのが「部門間の足並みが揃わないことによる導入の停滞」です。導入前に起こりがちな誤解や不安を整理し、両者が前向きに進めるためのヒントをまとめました。ぜひ、現場・情シスの橋渡しにお役立てください。

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1. AI導入が進まない理由は“技術”より“社内のすれ違い”

多くの企業が生成AIの活用に注目していますが、実際には導入が思うように進まないという声も少なくありません。その原因は技術的な問題よりも「社内のすれ違い」にあるケースが目立ちます。

  • 現場は「今すぐ使いたい」「業務が楽になるなら導入したい」と思っている
  • 一方、情シスは「情報漏洩が怖い」「社内ポリシーが整っていない」「影響範囲が見えない」といった慎重な姿勢になりがちです

こうしたすれ違いが放置されると、どちらも動き出せず、AIの価値が活かされないまま時間だけが過ぎていきます。

このガイドでは、現場と情シスそれぞれの立場を理解したうえで、どうすれば衝突を避け、協力して導入を進められるのかを具体的に解説していきます。

2. よくある“もめごと”のパターン

生成AIを導入しようとすると、現場と情シスのあいだで意見の食い違いが起こることは珍しくありません。どちらにも正当な理由がありますが、その違いを放置するとプロジェクトが止まってしまいます。

現場「すぐに使いたい」 vs 情シス「リスクが不明で承認できない」

現場は目の前の業務を効率化したいという思いが強く、AIの価値を実感しやすい立場にあります。一方で情シスは、情報漏洩や法的リスクを最小限に抑える責任を負っているため、明確な基準がなければ簡単に許可できません。

現場「手間を省きたい」 vs 情シス「管理が増えるのは困る」

生成AIを使えば作業の手間が減るという期待は大きいですが、使うツールが増えることで情シス側の管理工数が増えるという懸念もあります。特に、アカウントの発行やログ管理が煩雑になると、IT部門の負担は大きくなります。

現場「とりあえず試したい」 vs 情シス「正式手順を踏んでほしい」

「まずはPoCだけでも」と動きたい現場と、「社内手続きなしでツールを勝手に使われるのは困る」と感じる情シス。この溝が埋まらないと、導入の初期段階から足踏みすることになります。

このような意見の食い違いは、導入そのものを否定しているわけではありません。それぞれの立場で“見えているリスク”が違うからこそ、すれ違いが生まれているのです。

3. 視点を揃えるために知っておくべき“相手の論理”

生成AIの導入を進める際に、現場と情シスが衝突してしまうのは珍しいことではありません。ただし、それは「目的のズレ」が原因ではなく、お互いが守ろうとしているものが違うだけです。

現場が求めるものはスピード・自動化・業務改善

現場担当者は、日々の業務をいかに早く正確にこなせるかを重視しています。生成AIを使えば、報告書の下書きや議事録の要約、メール文の作成など、これまで手間だった作業が一気に時短できるという期待があります。そのため、現場は「とにかく早く使いたい」と考える傾向があります。

情シスが守るものはセキュリティ・統制・コスト管理

情シスの役割は、社内システム全体の安全性と安定性を保つことにあります。生成AIを導入することで、データ漏洩リスクやコスト増、管理対象の拡大といった新たな懸念が生まれるため、安易なツール導入には慎重にならざるを得ません。

「目的のズレ」ではなく「守るものの違い」で衝突しているだけ

両者が見ているゴールはどちらも“会社のため”です。現場は成果を出すためにAIを使いたい、情シスは安全に使ってほしい。このように、対立しているのではなく、視点が違っているだけだと理解すれば、建設的な会話がしやすくなります。

現場と情シスがそれぞれの立場と責任を理解し合うことが、AI導入の第一歩です。相手の論理を知ることで、歩み寄る土台がつくられていきます。

4. もめないための導入ステップ5つの原則

生成AIを社内に導入する際に現場と情シスが対立しないためには、最初の段取りがすべてです。両者の視点を尊重しながら、以下の5つの原則を踏まえて導入を進めると、スムーズに連携が取れるようになります。

① 目的を“共通言語”で合意する(例:「週10時間削減」など)

現場と情シスでは使う言葉も評価軸も異なります。そこで、「誰のどんな作業がどれだけ改善されるか」を定量的に表現し、両者が納得できる目的を設定することが大切です。

② 最初は“PoC(試行)”としてスモールに始める

PoC(Proof of Concept)は、成果の証明ではなく“試してみる”ためのフェーズです。1業務・1部門などスモールスタートで始めれば、リスクを抑えつつ現場も納得しやすくなります。

③ 利用範囲・責任範囲・費用負担を明確にする

生成AIの活用が広がると、いつ・誰が・どこまで責任を持つかが曖昧になりがちです。導入段階で、利用可能な業務範囲や責任分担、費用負担の区分けを明確にしておくことが重要です。

④ 情シスと一緒に“最終判断者”を設けておく

「導入を進めたい現場」と「慎重な情シス」の間に意思決定の中立者を置くと、対立を防ぎやすくなります。情シス側も相談相手として機能しやすくなり、承認フローもスムーズになります。

⑤ 成果と改善点を可視化し、社内で共有する

一度試したら終わりではなく、成果(例:作業時間の短縮、エラー削減など)や改善点をしっかり記録して共有しましょう。「試して終わる」のではなく、「次につなげる」文化をつくることが導入成功の鍵になります。

5. どちらにも納得されやすい“導入スタイル”とは?

生成AIの導入を進める際、現場と情シスの両方から納得を得るには“管理しやすくて自由度が高い”スタイルを選ぶことがカギになります。一方に偏ると、現場には使われず、情シスには負担がかかるだけ。だからこそ、次のような工夫が重要です。

SaaS型生成AI+アカウント制御で管理と自由を両立

クラウド上で使えるSaaS型の生成AIは、環境構築の手間が少なく導入もスムーズです。ここにシングルサインオン(SSO)やIAMでのアカウント管理を組み合わせれば、情シスはアクセス統制や利用履歴の把握が可能になります。一方で現場はブラウザからすぐに使えるため、操作も簡単でストレスがありません。

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機密情報を使わないルールを先に設定

情報漏洩リスクを懸念する情シスの不安を和らげるには、「社名や顧客名、社内の未公開資料は入力禁止」といった具体的なガイドラインを初期段階で提示することが効果的です。現場にも「何がOKで、何がNGか」が明確になり、安心して試すことができます。

成果が見える業務(要約・文章生成など)から入ると抵抗が少ない

最初に導入する業務は、比較的成果が見えやすくリスクの少ない領域がおすすめです。たとえば会議議事録の要約や営業メールの下書き、マニュアルの初稿作成など。こうした業務はAIの強みが活きやすく、現場も「使ってよかった」と実感しやすいため、導入後の拡大もしやすくなります。

6. 社内展開を成功させるには“共通KPI”をつくる

生成AIの取り組みを全社に広げるためには、現場と情シスが“同じ成果”を実感できるKPI(評価指標)を設定することが重要です。共通のゴールを明確にしておくことで、導入後もスムーズな連携が続きます。

時間削減/満足度/トライアル数など、双方が評価できる指標を用意

「AIを使ったら、何がどう変わるのか」を客観的に示すために、最初のスモールスタート段階から数値を意識しておくと効果的です。たとえば、議事録作成にかかる時間を何分短縮できたか、AI出力に対する満足度は何点か、試験導入部門で何人が使ったかなど、定量と定性を組み合わせたKPIを設定すると社内への説得力も増します。

情シスも“効果を見える形で評価できる”状態にするのがポイント

情シスはセキュリティや運用負荷に目が行きがちですが、導入の成果が見えれば前向きに支援しやすくなります。たとえば「導入後に問い合わせ件数が減った」「資料作成の残業がなくなった」など、業務改善の実績が数字で示されれば情シスとしても導入メリットを実感できます。

7. 現場と情シスは“対立”ではなく“役割分担”で導入を成功させる

生成AIの導入を社内で進める際、現場と情シスの間で意見がぶつかるのは珍しいことではありません。けれど、これは対立ではなく“役割の違い”です。両者が連携し、それぞれの強みを活かすことでスムーズな導入と定着が実現できます。

衝突を恐れず、早い段階で巻き込むことが成功の近道

現場は「早く使ってみたい」情シスは「慎重に進めたい」という立場の違いがありますが、このギャップは最初から話し合っておくことが重要です。目的を共有し「どんな成果を目指すか」を一緒に決めることで、不安や疑問も解消されやすくなります。

小さく始めて、共に進める体制を築こう

PoC(概念実証)としてスモールスタートを提案し、情シスにも初期段階から協力を仰ぐ体制が理想です。例えば「議事録作成の自動化」や「定型メールの下書き支援」など、リスクが低く成果が見えやすい業務を選ぶと協力を得やすくなります。

また、導入後も効果や課題を共有しながら改善していくことで、現場と情シスが“共同で成果を出す”関係に変わっていきます。

まとめ

生成AI導入では、現場の“使いたい”と情シスの“守りたい”がぶつかりやすいですが、目的を共有しお互いの立場を理解すれば、前向きな導入が可能です。

現場は「業務をどう楽にできるか」から入り、情シスは「リスクをどうコントロールするか」で支えるという役割分担がうまく機能すれば、導入のスピードも成果も高まります。

小さく始めて、実績を積み上げることが、全社展開への最短ルートです。試行錯誤を許容できる“対話の仕組み”づくりから始めてみましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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