生成AIができることは「文章をつくる」だけではありません。画像や音声、動画など複数の形式を扱えるマルチモーダルAIが登場し、働き方や情報の扱い方が大きく変わり始めています。
本記事では、「マルチモーダルAIとは何か?」という基本から、「ビジネスではどう使えるのか?」という実践的なヒントまでをわかりやすく整理しました。
こんな方におすすめ
- 生成AIの最新トレンドを押さえたい
- ChatGPTやClaudeなど、すでにAIを試したことがある
- 自社業務に次の活用領域を広げたい
ネクストはこれまで500社を超える企業のAI活用を支援してきました。導入時の課題として多く聞かれるのが、「AIの機能を理解していないと、現場が活用しきれない」「次に何をすればいいのかがわからない」という声です。
マルチモーダルは、“次の一手”を考えるうえで欠かせないキーワードです。初めての導入を考える方も、すでに活用している方も、ぜひご一読ください。
1. 生成AIはすでに「次のフェーズ」へ進みつつある
ChatGPTやClaudeなどの生成AIを業務に取り入れる企業が増えてきました。文章生成や要約、翻訳といった活用はすでに多くの現場で効果を上げていますが、いま注目されているのが「その先」の活用です。
ChatGPTやClaudeを使い始めた方が次に知っておくべき概念
すでに生成AIを試したことがある方ほど、最近の進化に驚かされるかもしれません。今のトレンドは、テキストだけではなく画像や音声、動画まで扱うことができる「マルチモーダルAI」です。
キーワードは“マルチモーダル”
マルチモーダルとは、異なる種類の情報を同時に理解・処理できるAIのこと。たとえば、画像を見て内容を説明したり、PDFを読み取って要点をまとめたり、音声データを聞いて議事録を作成したりと、これまで別々だった作業を1つのAIで完結させることが可能になります。
この動きは、単なる便利機能にとどまりません。マルチモーダルAIは、企業の情報活用のあり方そのものを変える可能性を秘めています。
次章では、そもそもマルチモーダルとは何なのかを、できるだけ噛み砕いてご紹介していきます。
2. マルチモーダルとは?簡単に言うと“いろんな情報を同時に扱えるAI”
最近よく耳にする「マルチモーダル」という言葉。聞き慣れないかもしれませんが、実はとてもシンプルな考え方です。
マルチ=複数
モーダル=情報の種類や感覚
つまり「マルチモーダルAI」とは、複数の種類の情報を一緒に理解して処理できるAIのことです。
たとえば、人間が会議で話を聞きながらスライドを見て、メモを取るように。
マルチモーダルAIも、テキストだけではなく、画像・音声・動画・コードなどを一度に扱うことができます。
テキストだけでなく、画像・音声・動画・コードなども理解・生成できる
これまでの生成AIは、基本的に「テキストベース」でした。たとえば文章を要約したり、メールを作成したりするなど、入力も出力も言葉が中心です。
マルチモーダルAIではそこに「画像を見せて説明させる」「音声を聞かせて議事録を作らせる」「PDFの内容を要約する」といったことが可能になります。
さらに、ソースコードの読解や、動画内のシーン解析なども視野に入っており、扱える情報の幅が一気に広がります。
人間の「見る・聞く・話す・書く」をまたいで処理できるイメージ
マルチモーダルAIを一言で言えば、「人間の五感に近づいたAI」といえるかもしれません。
人間は、誰かの話を聞きながら表情を見ることもできますし、画面を見て書類を読みながら考えをまとめることもできます。マルチモーダルAIも、こうした「複合的なインプットとアウトプット」が得意になってきました。
そのため、「複数の作業をAIにまかせる」ではなく、「1つの作業に必要な複数の処理をまるごと任せる」という発想に変わっていくのが、今後の使い方のポイントになります。
3. なぜ今、マルチモーダルが注目されているのか?
生成AIの話題が落ち着きつつある中で、次のトレンドとしてマルチモーダルAIが注目を集めています。
なぜ今なのか。背景には、技術の進化と、ビジネス現場のニーズの変化があります。
モデルの進化で“複数のモードを統合”できるようになった
かつては、テキストはテキスト、画像は画像と、分けて処理するのが当然でした。
しかし、GPT-4やClaude 3、Geminiのような最新モデルでは、1つのAIが複数の情報をまとめて扱うことができるようになっています。
たとえば「画像を見て内容を説明する」「PDFと指示文をセットで理解する」といったことが実用レベルに。
これにより、業務での使い方が一気に広がりました。
業務における「非構造データ」の扱いに革命が起きている
これまでのAI活用では、エクセルやデータベースのような「構造化されたデータ」が中心でした。
でも実際の現場には、PDF、画像、音声、動画など、整理されていない非構造データがあふれています。
マルチモーダルAIは、こうした非構造データに対応できる数少ない手段です。
たとえば「紙のマニュアルを撮影→読み取って要約」や「会議音声→要点抽出」といった処理も実現可能になります。
ChatGPT-4、Gemini、Claude 3など、主要モデルが対応しはじめたタイミング
実はこの流れは、最近になって一気に現実味を帯びてきました。
OpenAIのGPT-4(Vision対応)、GoogleのGemini、AnthropicのClaude 3といった主要な大手モデルがマルチモーダルに対応し始めたのが、その理由です。
つまり「どのAIを使っても画像やPDF、音声と組み合わせて使える時代」が来たということ。
企業にとっては、生成AIの次のステージをどう取り込むかが問われるタイミングになっています。
4. 具体的に何ができる?マルチモーダルの活用例
テキストだけではなく、画像・音声・動画・PDFなど多様な情報を同時に扱えるのがマルチモーダルAIの最大の強みです。
では、実際の業務ではどんなことに活かせるのでしょうか。ここでは代表的な活用例をご紹介します。
画像を読み取って説明文を生成する
たとえば商品開発やマーケティング部門では、画像から説明文を自動で作成することが可能です。
商品画像をAIに読み込ませ「これはどんな特徴があるか」を指示すると、使いやすい説明文を自動生成。
ECサイトの商品登録やSNS用テキストにも応用でき、作業の手間が大きく削減されます。
手書きメモ+写真+音声から議事録をつくる
会議中にホワイトボードに書いた図、録音した発言、参加者の手書きメモ——これらをまとめてAIに読み込ませて議事録に整理できます。
異なるモードの情報を横断して扱えるため、「見たこと」「聞いたこと」「書いたこと」すべてが議事録に反映されるようになります。
議事録作成の質とスピードが、劇的に向上します。
PDFや表、図を読み取って要約や分析をする
営業資料やレポート、アンケート結果のPDFなども、AIに読み取らせて要約・分析が可能です。
とくに表や図が多い資料でも、単なるテキストとして処理せず、レイアウトを理解した上で「中身」を掴むのがマルチモーダルの特徴です。
読み飛ばしがちな資料の“本質”を、短時間でキャッチアップできるようになります。
動画の中から重要な発言やシーンを自動で抽出・要約する
社内研修や顧客インタビューなど、動画コンテンツの要点整理にもマルチモーダルAIは力を発揮します。
AIは話している内容+映像の文脈を同時に解析し、重要なシーンやコメントを自動でピックアップ。
「長い動画を全部見る必要がない」状態をつくり、情報共有や教育コストを下げることができます。
5. ビジネスにどう役立つ?マルチモーダルの実務応用
マルチモーダルAIは「テキスト+画像+音声」など、複数の情報を一度に扱えるという特性を活かして、日常業務のあちこちに役立ちます。
ここでは、企業でよくあるシーンにフォーカスして、どんな実務に活かせるかをご紹介します。
マニュアルやFAQの“動画→文章→要約”の自動化
教育やサポートに使うマニュアル動画、ありますよね。
マルチモーダルAIなら、動画の音声や映像から内容を自動で書き起こし→要約までワンストップで対応できます。
たとえば「1時間の説明動画を3分で読めるマニュアルに変換」なんてことも可能です。
そのまま社内FAQに流用したり、外部向けのナレッジとして展開したり、“二次利用”の幅が一気に広がるのが強みです。
カスタマー対応で「画面キャプチャ+説明文」をセットで処理
ユーザーから「ここが分からない」と送られてきたスクリーンショット画像+文章メモ。
これまでは人が読んで判断していましたが、マルチモーダルAIなら画像とテキストを同時に理解し、状況把握+テンプレ回答の提案が可能です。
さらに、過去の問い合わせと照らし合わせたFAQリンクの提示なども期待でき、カスタマーサポートの質とスピードを両立できます。
IR資料、チラシ、ホワイトペーパーなどの“非テキスト情報”から要点抽出
社内に眠っているPDF資料、プレゼン、印刷物——これらは情報の宝庫ですが、見返すのが大変ですよね。
マルチモーダルAIは、そうしたレイアウトのある資料や表・図のあるファイルを丸ごと読み取り、
「この資料には何が書いてあるか」「どんなポイントが重要か」を要約やQA形式で出力してくれます。
情報資産の“活用されずに終わる問題”を解消し、必要な人に必要な情報を届ける仕組みづくりに貢献します。
6. 導入するには何が必要?今から備えておきたいこと
マルチモーダルAIは非常に強力ですが、すぐに最大限の効果を発揮するわけではありません。
あらかじめ準備しておくことで、スムーズな導入と成果につながります。
テキスト以外の情報資産(画像、動画、図表)の整理と準備
マルチモーダルAIの魅力は「画像や動画など非テキスト情報」を扱えることです。
だからこそ、まずは社内にあるこうした素材を棚卸しすることが第一歩です。
たとえば以下のような資料が対象になります。
- PDFマニュアルやプレゼン資料(図・表が含まれているもの)
- 商品写真、サービス紹介動画、サポート画面のスクリーンショット
- 社内教育用の録画コンテンツやセミナー動画
フォルダに埋もれている情報を分類・整理しておくだけで、導入後の活用スピードが段違いになります。
社内ルールとして「AIが扱ってよい情報の種類」を明確にしておく
生成AIの活用では、**「どこまでAIに見せてよいのか」**が非常に重要な論点です。
特に画像・動画・音声は、個人情報や業務機密が含まれるリスクがあるため、
事前にルールを整備しておくことでトラブルを未然に防げます。
おすすめは、以下のようなカテゴリ分けです。
- ○ 使用OK:公開済みマニュアル、製品写真、一般向けセミナー動画
- △ 要注意:一部に社内固有の記載があるスライド
- × 使用NG:顧客情報、社内人事資料、未発表製品の画像・音声
このようにグレーゾーンをなくすことが、現場で安心して試すための前提になります。]
少数のPoCから、画像+文章の業務でテストを始めるのが現実的
いきなり全社での展開を目指すより、まずは小さく始めるほうが現実的です。
特におすすめは、「画像とテキストがセットになっている業務」から始めることです。
例としては
- 商品画像を見て説明文をつくる
- マニュアルPDFから要点を抽出してFAQを自動化する
- 顧客からのスクリーンショット付き問い合わせへの自動返信文案づくり
これらは複雑な社内調整を挟まず、PoC(概念実証)として成果を実感しやすい分野です。
最初の一歩として、少人数で回せる現場業務に組み込むところから始めるのが成功の近道です。
7. マルチモーダルAIがひらく未来とは?
マルチモーダルAIは、単なる便利なツールにとどまりません。
業務の在り方そのものを変える可能性を秘めた“次の進化”です。
会議録・資料・図表がひとつながりに
現在は、議事録は文字、資料はPDF、図表は画像とバラバラに管理されていることが一般的です。
しかしマルチモーダルAIは、会議の音声から発言を拾い、スライド資料や図表と照らし合わせながら議事録をまとめるといったことも可能になります。
「誰が」「どの資料を元に」「何を言ったか」が自動で整理され、
過去の議論の再利用やナレッジ共有が圧倒的に楽になる未来がすぐそこまで来ています。
仕事を理解するAI”の実現に一歩近づく
マルチモーダルAIは、「文脈」や「意図」を多角的に捉えることができます。
たとえば、営業メールと添付されたチラシを見て、それに適した説明文を自動生成することも可能です。
つまりAIは、単に命令に従う存在から
「業務の流れを理解し、自発的に支援する存在」へと進化していくのです。
人間の補助役から、共に考える“仕事のパートナー”へのシフトが起き始めています。
人間の五感をまたぐコミュニケーションが可能に
私たちが普段行っている仕事は、実は「テキスト」だけでは完結しません。
声のトーン、表情、図解、映像、手書きメモなど、複数の要素が混ざり合って意味が伝わることが多いものです。
マルチモーダルAIは、こうした人間の感覚をまたぐ情報処理を可能にします。
**「画像で説明しながら、話し言葉で補足する」**という自然なスタイルのやりとりも、AIがスムーズに受け取り、反応できるようになります。
これはまさに、“AIとの会話”がより人間らしくなる転換点です。
8. マルチモーダルは“次の主流”。今から意識しておくだけで差がつく
生成AIがもたらす進化のなかでも、マルチモーダルはこれから主流になると確実視されています。
ただし、特別な知識や体制がなければ使えないというものではありません。
今の段階から意識しておくだけで、AI活用の視野は大きく広がります。
まだ早すぎる技術ではない、小さな応用から始められる
「マルチモーダルって未来の話では?」と思う方もいるかもしれません。
ですが実際には、ChatGPT-4やClaude 3などすでに使えるモデルが登場しており、画像やPDFの読み取り、図の要約なども業務で普通に使える段階にきています。
たとえば次のような応用は、すでに現実的です。
- 会議資料(PDF)を読み込ませて要点を抽出する
- スクリーンショットから操作手順を説明させる
- 手書きメモ+音声メモをまとめて議事録にする
小さな業務から始めることで、「どこで使えそうか」が自然と見えてきます。
テキストの限界を超えたAI活用がいよいよ現実に
これまでの生成AIは主にテキストの世界で活躍してきました。
しかし業務には、「表」「図」「画像」「音声」「動画」など、さまざまな形式の情報があふれています。
マルチモーダルAIは、こうした形式を横断して理解・処理できるため、業務そのものを“文章化”しなくてもAIが役立つ領域が増えるのです。
これはつまり、
「AIに合わせて業務を整える」から「業務にAIを合わせる」時代への転換とも言えます。
今からマルチモーダルという考え方を持っておくだけで、将来の変化に柔軟に対応できるようになります。
まとめ
マルチモーダルAIは、画像や音声、動画などを“文章と同じように”扱えるAIです。ビジネスでの活用はまだ始まったばかりですが、すでにマーケティング、カスタマーサポート、教育分野など多くの現場で導入が進んでいます。
生成AIは今、単なる文章生成を超えて、あらゆる情報を統合・理解・変換する時代に向かっています。
次に必要なのは、技術の理解だけでなく「どんな業務に応用するか」という視点です。ネクストではこうした“次の活用”も含めて支援していますので、ぜひお気軽にご相談ください。